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安達太良山に導かれてやってきた、地域おこし協力隊員まるちゃんの物語

彼女の名前は丸田陽加里(ひかり)さん。愛称まるちゃん。

 

広島県生まれ、横浜育ちのまるちゃんは安達太良山に導かれ、2018年4月に二本松市地域おこし協力隊員として岳温泉観光協会にやってきました。以来、私たちの仲間として地域を盛り上げてくれたまるちゃんが、この3月で卒業します。そこで今回は岳温泉で過ごした3年間を振り返ってもらうとともに、今後についても話していただきました。

 

 

SNS、ミルキーデイ、菊手水(きくちょうず)……。まるちゃんのことを直接知らない方も、もしかしたらいろんなところで彼女とつながっていたかもしれません。

 

まるちゃんの“これまで”と“これから”の物語、それではスタートです。

 

安達太良山と運命の出会い、そして岳温泉観光協会へ

東京の大学を卒業後、大手機械メーカーに就職して郡山工場に配属されたまるちゃんが運命の出会いをしたのは2017年8月。運命の相手は、友人に誘われて登った安達太良山でした。

 

 

「その時が大人になって初めての登山だったと思います。山頂から稜線を歩いて沼ノ平火口に行ったら、すごい感動しちゃって。『ここは火星か!?』みたいなダイナミックな景色に『大地のパワーってすごい』と圧倒されたんです。そのころ転職活動をしていたんですけど、どこに就職しようとか、自分は何がしたいんだろうみたいな悩みはちっぽけなことだなって感じたんですよね」

 

撮影:丸田陽加里

 

その後、吾妻連峰の一切経山などにも登ったそうですが、沼ノ平火口の鮮烈な印象が忘れられず、紅葉シーズンに再び安達太良山へ。安達太良山愛をさらに深めていきました。

 

その年の冬、まるちゃんは二度目の運命の出会いをします。観光PRや情報発信を行う地域おこし協力隊員を募集する、岳温泉観光協会の求人情報をインターネットで見つけたのです。

 

岳温泉には日帰り入浴で2回来ただけで、地域おこし協力隊のことも知らなかったというまるちゃん。仕事内容に興味があり、話だけ聞いてみようと観光協会を訪ねたそうです。

 

 

「『岳温泉のことはあんまり知らないんですけど、安達太良山が大好きで、安達太良山や福島の良さをもっと首都圏の人に伝えたいんです』と話したら、『安達太良山や岳温泉に関係していれば何でもやっていいよ』と言われて(笑)。めっちゃ自由!ってびっくりしましたが、ここでなら自分のやりたいことをしながら自分探しができるかもと感じました」

 

何度か話を聞いたり職場見学をして転職を決意。2018年4月から岳温泉観光協会での活動が始まりました。

 

同世代の女性をターゲットに安達太良山の魅力を発信

まるちゃんの最初のミッションは、インスタグラムやフェイスブックを活用した情報発信でした。

 

「私が福島に来て困ったのは、ごはんを食べに行くにしても遊びに行くにしてもインターネット上に情報がないこと。岳温泉もすごくいいところなのに情報がなくて、これじゃ若い人は来ないよな、SNSでの情報発信が大事だよなと思って始めました」

 

さらに、大好きな安達太良山の魅力発信にも着手します。ターゲットは20代~30代の山好きの女性。「山歩き×旅=山旅」というコンセプトを打ち出し、安達太良山の紹介と周辺エリアの観光情報などを掲載したスタイリッシュなパンフレットと、ウェブサイト「安達太良山のおでかけメディア #ふらっとよりみちあだたら」を制作しました。

 

 

「安達太良山には二本松からだけでなく福島市からも猪苗代町からも登れるし、周辺に温泉や観光スポット、カフェがたくさんあります。岳温泉から車で10分で福島市、30分で猪苗代町に行けるし、お客さん目線で見たら自治体にこだわる意味はないなと思って。安達太良山に登って、周辺エリアの観光もしていってほしいなと思って作りました」

 

 

2018年秋と2019年秋には「#ふらっとよりみちあだたらInstagramキャンペーン」を行い、独自のハッシュタグ「#ふらっとよりみちあだたら」の累計投稿数は2,000件を突破。2019年にはJR福島駅でキャンペーン入賞作品を展示したほか、安達太良山と周辺エリアのモニターツアーも実施しました。

 

 

地域おこし協力隊1、2年目は仕事も含めてほぼ月1回のペースで安達太良山に登っていたと振り返るまるちゃん。自身が安達太良山をとことん楽しみつつ、その魅力を同世代の女性に発信し続けました。

 

 

埋もれていた宝を地域の魅力に変えた“ミルキーデイ”

今では岳温泉名物としてすっかり定着した“ミルキーデイ”。この生みの親も、実はまるちゃんです。

 

といっても週に一度、岳温泉のお湯が真っ白になるという現象自体は、まるちゃんが来るずっと前からありました。岳温泉の源泉は安達太良連峰の鉄山直下、標高約1,500mの地にあり、そこから温泉街まで約8kmの距離を引き湯されてきています。源泉の管理やメンテナンスを行う湯守(ゆもり)が週に一度、源泉が流れるパイプの湯花を落とす作業を行うと、岳温泉のお湯が真っ白になるのです。

 

 

「『お湯が真っ白になるのはなんでですか?』と旅館の方に聞いたら、『湯守が湯樋(ゆどい)清掃をやってるんだよ。その日は湯花がいっぱい流れてきて掃除が面倒くさいんだ』と返ってきたんです。『いつもより濃厚だし、真っ白なお湯めっちゃいいのに』と思ったことがきっかけでした」

 

青森県の温泉で使われている“湯花流し”という言葉を拝借し、湯樋清掃を風情あるイメージにチェンジ。さらに伝わりやすくするために、湯花流しの日を“ミルキーデイ”と名付けてSNSで発信し始めました。

 

「湯守の矢吹梓さんが毎週湯花流しに行った時に『ミルキーなお湯です』とコメントをつけてSNSに動画をアップしていたんです。確かにミルクだよねと思ってそのアイデアを借りたのと、岳温泉には酪農家さんが多いこともあって“ミルキーデイ”と名付けました」

 

 

今では観光協会に「今日はミルキーデイですか?」と問い合わせが来ることもしばしばで、この日を楽しみに訪れるお客様も増えています。

 

「今まで面倒くさい、価値がないと思われていたことが実は魅力的だった。その価値転換がすごくおもしろい体験でしたね。今まで埋もれていたものを再編集したり、見せ方を変えるだけでこんなに人を呼ぶことができる。それが地域づくりのおもしろさだと気づきました」

 

 

また、岳温泉ならではの引き湯文化とそれを守る湯守の大切さにも気づいたとまるちゃんは話します。

 

「湯守の作業を実際に見に行ったり話を聞いていく中で、湯守がいないと岳温泉は存続できないことに気づいたんです。高齢化が進んでいますし、後に続く人を育てることが岳温泉の大きな課題だと感じています」

 

 

文字どおり岳温泉のお湯を守るために過酷な作業を行う湯守の皆さんに感謝したい。そんな気持ちが生まれたまるちゃんは、SNSでミルキーデイについて投稿する際、必ず湯守にも触れるようになったと振り返ります。

 

 

オンラインストアに菊手水……コロナ禍での奮闘

地域おこし協力隊3年目の2020年は、新型コロナウイルスの影響で観光情報の発信や地域づくりが思うようにできない状況でした。そんな中でもまるちゃんは柔軟な発想で緊急事態に対応します。

 

まず手がけたのがオンラインストア「岳温泉商店街」です。「お店にお客さんが来なくなり、『このままじゃ食べていけないから外に働きに出なきゃ』と話す70代の方の言葉を聞いて、何かしなきゃと思いオンラインストアを立ち上げました」

 

 

「岳温泉商店街」は2020年5月にオープン。まるちゃん自身がSNSで発信したこともあり、最初の月は予想以上の売り上げを記録。現在もコンスタントな売れ行きを見せています。

 

2020年秋には「二本松の菊人形」の開催見送りを受け、二本松の菊をPRする新たな取り組みとして市内5エリアで「菊手水」を実施しました。二本松市で活動する8人の地域おこし協力隊員が企画し、市内で栽培された洋菊(マム)で神社やお寺の手水を飾ったほか、道の駅や岳温泉の旅館、お店などにも菊手水を設置。市内外で大好評を博しました。

 

 

まるちゃんが特にうれしかったのは地域住民が菊手水を喜んでくれたことだと言います。「皆さん『きれい』『かわいい』ってすごく喜んでくださって、お店の方たちが自主的に菊手水を飾ってくださるようになったんです」

 

もともと二本松市民にもっと菊を身近に感じてもらいたいという思いがあったそうで、「実は菊手水の裏の目的がそれだったんですけど、結果的にそっちの反響が大きくてびっくりしました」と笑います。マムを水に浮かべるだけと手軽に楽しめることが喜ばれ、菊手水終了後も二本松商工会議所女性会が「菊いかだ」という名称で同様の企画を実施しました。

 

 

「地域の方が喜んでくれて、これからもやっていきたいと思う企画を作らないと続いていかないですよね。これまでいろんな企画をやってきましたが、菊手水ほど地域の皆さんが主体的に楽しんでくださった企画はなかったし、『地域おこしってこういうことなんだな』と感じました」

 

まるちゃんの“これから”と岳温泉への想い

観光情報発信や地域づくりといった活動だけでなく、さまざまな形でまるちゃんは岳温泉に住む人たちと深く関わってきました。

 

 

「私はお酒が大好きなので、よく地元の人たちとの飲み会に参加しました。特に1年目は朝4時まで飲んでっていうのを何回やったかな(笑)。岳温泉の“長老”に歴史の話を聞いたり、登山ガイドの方に山の話を聞いたり、仕事のことからプライベートなこと、時には地域のことまでいろんな話をしましたね」

 

 

3月で地域おこし協力隊を卒業して岳温泉観光協会から離れるまるちゃんですが、今後も二本松市に残って活動を続けるそうです。

 

「いま二本松を拠点に活動するアートディレクターの馬場立治さんの仕事を手伝っていて、浪江町のプロジェクトなどに関わっています。デザインの勉強もしているんですけど、人とコミュニケーションをとって企画を立て、プロモーションをするという自分の得意分野で福島県、特に浜通りのことも、これからは伝えていきたいと考えています」

 

 

もちろん二本松や岳温泉とのつながりも続きます。その一つとして馬場さんとまるちゃんが始めたのが、YouTubeで動画を配信する「にほんまつTV」。二本松で活躍する人をゲストに招き、活動の内容や地域の魅力についてまるちゃんが聞くというものです。

 

 

「これからは福島県というもう少し大きなスケールで活動していく予定です。でも岳温泉とはずっと関わっていたいので、温泉に入りに来るし、ごはんも食べに来ます。もちろん安達太良山にも登ります!」

 

安達太良山と安達太良山を源とする岳温泉を愛し、ここには書ききれないほどたくさんの活動を通して地域を盛り上げてくれたまるちゃん。「岳温泉は第二の故郷。自分を育ててもらった場所です」と最高の笑顔を見せてくれました。

 

まるちゃん、今まで本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします!

 

 

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関連サイト

#ふらっとよりみちあだたら
https://www.adatarayama-tozan.com

オンラインストア「岳温泉商店街」
https://dakeonsen.stores.jp

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